中古車オークションの検査表を読む
「W」など記号が示す状態と、事故車・水没車の見方
業者間の中古車オークションでは、出品する一台ごとに「検査表(出品票)」が作られ、評価点や「W」のようなアルファベットの記号が展開図のまわりに並ぶ。傷や凹み、補修跡、錆といった状態を短い符丁に置き換えたものだが、記号の割り当てや点数の意味づけはオークション会社ごとの内部基準であり、全国共通のルールとして法律で定められているわけではない。しかも一般の購入者がこの検査表そのものを目にする機会は基本的になく、実務では販売店が示す車両状態評価書を介して読むことになる。この記事では記号がおおよそ何を示す枠組みなのかと、その限界を整理する。
先に断っておくと、記号や評価点を知っていれば事故車や水没車を確実に見抜けるという話ではない。検査は限られた時間の中で行われる目視・触診中心の作業で、判定基準も会場ごとに異なる。ここで示すのは「検査表にはこういう情報がまとめられている」という一般的な読み方の骨組みであり、最終的な判断材料としては実車の確認や専門家の意見と組み合わせて使ってほしい。
総合評価点が要約している内容
出品票でまず目に入るのが「総合評価点」と呼ばれる点数だ。この点数の刻み方や意味づけはオークション会社が独自に定めた内部基準で、全会場共通の統一ルールとして法律で決められているものではない。ただし規程を公開している会社はある。USSは「検査規程」をウェブで公開しており、その別表1(評価点および評価基準表)を読むと、この体系がどう組まれているかが具体的に分かる。
USSの規程では、最上位のS点が「走行距離10,000km未満・内装補助評価Aランク・ほとんど無傷、無補修であるもの・初年度登録経過月数12か月まで」。以下6点、5点、4.5点、4点、3.5点、3点と、走行距離と内外装の程度の組み合わせで下りていく。ここまでとは別枠で、2点が「商品価値の低いもの、粗悪車等」、1点が「冠水歴車、消火剤散布歴車等」、R点・RA点が「修復歴車」、X点が「極端な低年式車、レプリカ車、特殊車両等の評価の困難なもの」と定められている。数字の点数が状態の連続的な良し悪しを表すのに対し、R点やX点は状態の程度ではなく車の素性を示す区分だ、という構造がここから読み取れる。中間あたりの点数が状態と価格のバランスを取りやすい層として語られるのも、この刻みを前提にした話になる。
検査の厳しさにも幅がある。基準を厳格に運用していると評される会場もあれば、会場や検査を担当するスタッフによって基準の当て方にばらつきが出やすいと指摘されることもある。同じ数字の評価点でも、どの会場でどの検査員が付けたかによって、実際の状態には幅が生じうると考えておいたほうがよい。
「W」などアルファベット記号が示すもの
点数のまわりには、車の展開図とともにアルファベットの記号が添えられる。線状の傷、凹み、傷を伴う凹み、補修跡や再塗装のムラといった状態を一文字に置き換え、それぞれに1から3程度の数字を付けて程度の大小を表す、という組み立てだ。「W」はこの補修跡系の記号として説明されることが多く、数字が大きいほど補修の程度が目立つ、と紹介される。
錆や腐食、フロントガラスの傷、部品の交換や交換跡を示す記号が加わることもある。ただし、どのアルファベットにどの意味を割り当てるか、どこから「目立つ」と判定するかは会場ごとの取り決めだ。公開されている解説の一覧を突き合わせると細部が微妙に食い違っており、一つの表を唯一の正解として覚えるのは危うい。記号は「販売店に何を質問すべきか」を決めるための手掛かりであって、それ自体が答えではない。
修復歴の扱いと、規約が定める骨格部位
出品票では、修復歴のある車に専用の区分が用意されていることが多い。この「修復歴」という言葉には、記号や評価点と違って明文の定義がある。自動車公正競争規約の施行規則第14条は、修復歴を「車体の骨格に当たる部位を修正及び交換することにより復元されたもの」と定め、対象となる部位を8つ列挙している——①フレーム(サイドメンバー)②クロスメンバー③フロントインサイドパネル④ピラー(フロント、センター及びリア)⑤ダッシュパネル⑥ルーフパネル⑦フロアパネル⑧トランクフロアパネル。規約第11条は、中古車を販売する際にこの修復歴の有無を表示することを販売業者に義務づけており、施行規則第15条は「有」「無」で表示すると定めている。
実際の判定の細目は、一般財団法人日本自動車査定協会(JAAI)の「中古自動車査定基準」が受け持つ。同基準は骨格を「溶接接合されている部位のみ」とし、ネジ止めの部品は骨格に含めない(リベット止め・接着剤止めで恒久的に取り付けられているものは溶接に含む)。また「小さな損傷は修復歴としない」としたうえで、その小さな損傷の大きさをカードサイズ(8.5cm×5.4cm)と定めている。ごく小さな凹みや亀裂、突き上げによる損傷が一律には修復歴に数えられないのは、この線引きによる。
この基準は業者間取引にも及ぶ。自動車公正取引協議会は、修復歴判断基準について「公取協(自動車公正競争規約)、日査協(修復歴判断基準)、日本オートオークション協議会(修復歴判定基準)の3団体において同一の基準としています」と案内している。もっとも、同一の基準を掲げていることと、現場の一人ひとりの検査員が同じ線を引くこととは別の話だ。「修復歴なし」の表示だけを見て、骨格以外の損傷歴まで存在しないと決めつけないほうがよい。
検査表を直接見るのは会員だけ、購入者に届くのは車両状態評価書
ここまで記号や評価点の意味を並べてきたが、実務上ここに一つ大きな壁がある。業者間オークションの検査表(出品票)は、そのオークション会場に加盟している販売店・業者向けの資料であり、一般の購入者が直接手に取って確認できる場ではない、というのが基本的な仕組みだ。「検査表を見れば分かる」という言い方自体、多くの購入者にとっては前提が成り立たない。
では購入者はどこで車の状態を確認するのかというと、現実的な入口になるのが販売店が提示する「車両状態評価書」の類だ。これは検査機関が目視・触診・計測でチェックし、外装や内装の減点、下回りや機関まわりの所見、修復歴の有無、走行距離の整合性などをまとめたレポートを指す。制度として名前がはっきりしているのは日本自動車査定協会(JAAI)の車両状態証明事業で、同協会は車両状態証明書について「その車の修復歴の有無が判ります」「傷や凹み、補修跡等を記号と数字で表示しているので、現車と照らし合わせて確認できます」と説明している。このほかに民間の検査会社が独自の項目で発行するレポートもあり、検査項目も点数の付け方も発行元ごとに違う。展示車に評価書が添えられているか、添えられている場合はどこが発行したものかを確認することが、購入者にとっての最初の一歩になる。
なお、中古車の広告や店頭表示における修復歴の有無の表示は、「案内がある」どころではなく規約上の義務だ。自動車公正競争規約第11条第1項は販売業者に修復歴の有無の表示を義務づけ、施行規則第15条が「有」「無」で表示すると定めている。さらに規約第14条は、修復歴があるのにその旨を表示せず修復歴がないかのように誤認させる表示を、不当表示として禁じている。気になる場合は、その表示がどの評価書に基づくものかを販売店に確認するのが確実だ。
水没車(冠水車)の手掛かりと、告知をめぐる考え方
台風や豪雨などで車内まで浸水した、いわゆる水没車(冠水車)は、修復歴車とは扱いが異なる。骨格の交換や修正を基準にする修復歴の判定とは別枠で、まず定義そのものが違う。日本自動車査定協会の中古自動車査定基準では、冠水車は「集中豪雨や洪水などにより、室内フロア以上に浸水したもの、または、その痕跡により商品価値の下落が見込まれるもの」とされ、同基準は浸水の深さに応じて基本価格の50%以内(フロアまで)、70%以内(クッション上部以上)という減点率を目安に置いている。オークションでも、USSの検査規程は冠水歴車を評価点1点の区分に置いている。
ここで一つ、はっきりさせておきたい点がある。「冠水車には告知義務がない」という説明が世の中に出回っているが、これは古いか、そもそも誤りだ。自動車公正取引協議会は2020年12月の会員向け文書で、「新聞やインターネット上では、『冠水車を消費者に販売する際、販売店にその旨を表示・説明する義務はない』等の誤った情報が流されているケースも見受けられます」と名指しで注意を出している。同文書は、冠水車であることを表示・説明しなかった場合も優良誤認にあたる不当表示として公正競争規約に違反し、景品表示法上も問題になる、と明言している。
さらに2023年4月27日、この点を条文に書き込む規約改正が施行された。不当表示の禁止規定に「冠水車であるにもかかわらず、虚偽の表示及びその旨を表示しないことにより、冠水車ではないかのように一般消費者に誤認されるおそれのある表示」が追加され、あわせて違反への厳罰規定——初回から「厳重警告」、悪質なものには「違約金」——が新設されている。修復歴のように常時「有/無」を掲げる必要表示事項に冠水歴が入っているわけではないが、隠せば規約違反になる、という点は現在の規約に明記された事実だ。
購入を検討する側でできる手掛かりとしては、車内やエアコンの送風口から漂うかび臭さや泥っぽいにおい、シートベルトの巻き取り部やペダルの奥、ダッシュボードの裏側などふだん掃除の手が届きにくい場所に残る泥や砂、シートを外したレールやボルト周りの錆、メーター内側の曇り、電装品の断続的な誤作動などが一般によく挙げられる。ただし、これらのどれか一つが当てはまったからといって水没車だと断定できるものではなく、逆に何も見つからないからといって水没歴がないと言い切れるものでもない。気になる兆候があれば販売店に経緯を確認したうえで、水没歴のチェックに対応した専門的な検査を依頼するとよい。
記号を読んだ先の最終判断
評価点や「W」などの記号は、車両状態評価書やオークション関連の解説を読むときの手掛かりにはなる。ただし、会場ごとに基準が異なること、購入者が検査表そのものに触れる機会は基本的にないこと、この二つの制約がある以上、記号の意味を覚えただけで事故車や水没車を確実に見抜けるようにはならない。展示車に添えられた評価書の発行元と内容を確認し、疑問点は販売店に質問し、可能であれば信頼できる整備工場や鑑定士など第三者の目を借りて実車を確認する、という積み重ねが現実的な進め方になる。
そもそも、こうした状態の読みにくさや将来の値落ちを自分で抱え込みたくないと考えるなら、中古車を探す代わりに、決まった月額であらかじめ条件の決まった新しい個体に乗る、新車のカーリースという選び方も一つの候補になる。中古車の状態を見極める手間そのものを引き受けない、という発想の切り替えだ。