車が水に浸かったら
その場でできること、保険ができること、次に備えられること

更新日: 2026-08-20 / ジャンル: クルマの備えと保険

大雨のニュースを見て、駐車場に置いた車のことが頭をよぎった。そんな夜を過ごした方は、今年は多かったのではないでしょうか。車は、家の次に高い買い物になることが多いものです。それが一晩で水に浸かるかもしれない、と思うと落ち着かなくなる。その不安は、もっともだと思います。ですからこの記事では不安を煽らずに、順番に手順へ置き換えていきます。水が迫ってきた時点で何をするか、水が引いたあとに何をしてはいけないか、任意保険はどこまで面倒を見てくれるのか、そして次に備えて今日できること。この四つです。

先にお断り 保険の可否や金額はご契約の内容によって変わります。ここで「あなたの場合はこうなります」と申し上げることはできません。確認すべき場所をはっきりさせるところまでが、この記事の仕事です。本文の内容は2026年8月20日に各公表資料を確認した時点のものです。

まず、水が迫ってきたその場で

JAFの解説によれば、一般的に走行可能とされる水深は、乗用車であればドアの下端、つまり自動車の床面が浸からない程度だとされています。思っていたより浅い、と感じた方が多いのではないでしょうか。私も最初にこれを読んだときは、ずいぶん低いところに線が引かれているのだな、と思いました。

やっかいなのは、運転席にいるとその線を越えたことに気づきにくいことです。JAFは、運転席にいる限り床面以上の水深であってもただちには浸水してこないため、危険を察知するころには車が浮いて動けなくなっている、と説明しています。エンジンの吸気口から水を吸ったり、排気管が水圧で塞がれたりして、そのまま止まってしまう。

ですから、判断は水に入る前にするしかありません。高架下、電車のガード下、立体交差のアンダーパスのように周囲より低い場所は冠水しやすいので、迂回する。これがいちばん確実です。

もし車内に水が入ってきてしまったら。JAFは、慌てずに車を止めてエンジンを停止し、そのうえで避難方法を考える、としています。外に出るときも、いきなり飛び出さない。片足を浸けて水深を測りながら、次にゆっくりと両足をつき、進んできた方向に歩いて戻る。濁った冠水路では道路の状況が外から分からず、マンホールのふたが外れていても気づけないことがあるためです。

水没して車が沈み始めた場合については、JAFは別の解説で、まずシートベルトを外すこと、ドアや窓が開かない場合は緊急脱出用ハンマーでガラスを割ることを挙げています。ただし、ここには但し書きがあります。

ハンマーが効かない車もある JAFは、一部車種のドアガラスはフロントガラスと同様に合わせガラスを採用しているため、割れない場合があると注意を促しています。ハンマーを買って安心する、という話ではないわけです。

そしてもうひとつ、覚えておくと違うことがあります。外の水位との差が小さくなると、ドアにかかる水圧も小さくなって開けやすくなる、とJAFは説明しています。車内に水が入ってくるのは恐ろしいことですが、その途中に、ドアが開く瞬間が来る。

水が引いたあと、してはいけないこと

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。JAFは、こう書いています。

「水が引いたからといって、自動車に乗り込みエンジンを掛けると破損や感電の危険がありますので、絶対にやめてください。」そしてこれは、河川の氾濫などで、止めていた車両が水没した場合も同様だ、と続きます。

つまり、運転中に浸かった車だけの話ではありません。駐車場に置いたまま浸かった車も同じです。翌朝、水が引いて、見た目には泥がついているだけに見える。動くかどうか確かめたくなる。その気持ちはとてもよく分かりますが、そこで鍵を回さない。

理由は、車の中で起きていることが外から見えないからです。JAFは別の解説で、冠水した水位にもよるとしたうえで、電装系のショート、エンジン破損、ブレーキ機構の異常が発生している恐れがあるとし、各部の点検を行うまではエンジンを始動させないように、と案内しています。

海水に浸かった場合は、さらに注意が要ります。JAFによれば、海水は電気を通しやすい性質があるため電気系統がショートし、車両火災につながる可能性がある。しかも、車からキーを抜いていてもバッテリーから直接電気が流れてショートするケースがあり、水が引いた後でも海水による腐食が進んでショートすることがある、というのです。台風の高潮で海沿いの駐車場が浸かった、というときは、この話が効いてきます。

やることは、ひとつだけです。動かそうとせず、JAFのロードサービスや販売店に連絡する。判断を、車を開けられる人に渡してしまう。

任意保険は、どこまで面倒を見てくれるのか

さて、家計の話です。

日本損害保険協会は、任意の自動車保険について「車両保険」を付けていると、台風や洪水などの風水災等によって自動車が損害を被った場合に保険金が支払われる、と説明しています。同協会の損害保険Q&Aでも、車両保険がいう「偶然な事故」には、衝突や接触だけでなく台風、洪水、高潮などが含まれるとされています。

ここまでを読むと安心しそうになりますが、同じ説明には、ふたつの但し書きが付いています。

ひとつ目 「※契約タイプによっては保険金が支払われないことがあります。」車両保険には補償範囲を限定したタイプがあり、限定の仕方によっては水災が外れていることがある、ということです。ご自分の証券に何と書いてあるかは、証券を見るまで分かりません。
ふたつ目(見落とされやすい) 「※地震・噴火・津波による損害は補償されません。なお、これらの損害を補償する特約が用意されている場合があります。」損害保険協会のQ&Aでも、車両保険で保険金が支払われない主な場合として「地震・噴火またはこれらによる津波によって生じた損害」が挙げられています。

つまり、同じ「水に浸かった」でも、大雨や台風による洪水・高潮と、地震による津波とでは、扱いが違うのです。前者は車両保険の対象になりうる。後者は原則として対象外で、補償したい場合は特約という別の枠組みが要る。

なお同協会は、津波等による損害について、一定の条件で一定額を扱っている会社もある、とも書き添えています。条件の例として、補償する損害を限定しないタイプの車両保険を契約していて車両が全損となった場合などが挙げられ、金額の例も示されています。ただしこれはあくまで協会が示した例であって、すべての会社がそうしているという意味ではありません。

ですから、確認していただきたいのは次の三点です。

証券かマイページを開けば、いますぐ確かめられる項目ばかりです。保険料や条件は改定されますので、いま加入中の内容は、必ずご自身の証券と保険会社の最新情報でご確認ください。補償の中身を見直したくなったときの考え方は、自動車保険の乗り換えと見積もりを扱った記事にまとめています。

そしてもう一点。被害に遭ったときの連絡先——保険会社の事故受付とロードサービスの番号を、スマートフォンの中だけでなく、紙にも控えておくことをおすすめします。車が水に浸かるような日は、たいてい停電と通信の不調がセットで来ます。

【元検査員の証言】冠水した車は、そのあとどこへ行くのか

ここからは、中古車オークションの会場で長く車を見てきたという設定の書き手に、話を代わってもらいます。以下は随筆として書かれたもので、特定の実在する会場・出品車・落札結果を記述したものではありません。

車は嘘をつかない。嘘が混じるのは、書類と照明のほうだ。

冠水した車がどうなるか、という話をする。「冠水車」は、業界の取り決めのなかに名前を持った区分としてある。自動車公正取引協議会の自動車公正競争規約は、不当表示の一つとして、冠水車であるにもかかわらずその旨を表示しないこと等により冠水車でないかのように誤認されるおそれのある表示、を挙げている。修復歴の不表示は、その一つ前の項に別立てで書かれている——つまり、修復歴と冠水歴は別の項目だ。「修復歴なし」は、水に浸かっていないことの証明にはならない。

検査表や評価点の読み方そのものは、このサイトの別の記事が詳しく扱っている。ここでは一点だけ付け加えておく。規約が禁じているのは「表示しないこと」であって、規約があるから必ず表示されている、という意味ではない。だから買う側は、書類に頼りきらない。

私の見方を書いておく。外板、骨格、内装、機関の順に見る。冠水を疑うときに時間をかけるのは内装だ。シートレールの奥、シートベルトを最後まで引き出したときの縁、スペアタイヤを収めるくぼみ。水は低いところに残り、泥は繊維の際に残る。においは、締め切った車内で数十秒待つと分かることがある。

そして照明を疑う。展示場の明るさは車を良く見せるためにある。私が曇りの日の夕方に、斜めから差す光で見に行けと言うのは、そのためだ。

ただし、ここまでは見当をつける話にすぎない。最終的な判断は現車確認と、プロの査定・第三者機関の検査に渡してほしい。

次に備えて、今日できること

最後に、次の大雨までにできることを。

いちばん効くのは、車をどこに置いているかを地図で確かめておくことだと思います。国土交通省のハザードマップポータルサイトでは、「重ねるハザードマップ」で洪水・土砂災害・高潮・津波のリスク情報などを地図に重ねて表示でき、住所を入れればその地点の災害リスクを調べられます。市町村が作成・公開したハザードマップへは「わがまちハザードマップ」からたどれます。

見るのは自宅だけではありません。月極駐車場、職場の駐車場、実家に帰ったときに停める場所。生活のなかで車が長時間止まっている場所を、順番に入れてみてください。

このとき、住まいそのものの水害リスクも一緒に目に入ってきます。家を買う・借りるときの判断は本記事の範囲を超えますが、同じ地図で確かめられる、ということだけ書き添えておきます。

そのうえで、置き場所を変えられないなら、変えられることのほうを手当てします。大雨の予報が出た日に立体駐車場の上階や高台の時間貸しへ一時的に移す。それが難しければ、車内に何を残しておくかを見直す。車検証は水に濡れると読みにくくなりますし、避難のときに持ち出す物と車に置く物は分けておいたほうが動きやすい。

それから、これはお金の話ですが——先ほどの証券の確認を、次の更新月まで待たないことをおすすめします。水害は更新月を選んで来てくれません。

車は、買った日より買ったあとの毎月のほうが、ずっと長いものです。維持費の欄に一行、「補償の中身を年に一度見る」を足しておく。それだけで、次の大雨の夜の落ち着きが少し変わります。

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